地味地味フォリオ

「地味業種=非公開化候補」の仮説をデータで検証した記録

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はじめに

前回、過去のTOB/MBO経験から「高配当・割安・小型・地味業種=非公開化合理性」という仮説を立て、ChatGPTとClaudeに壁打ちしながらスクリーニングシステムのMVPを設計しました。

今回、そのMVPが完成して2,820銘柄を対象にフル実行できました。結果をデータで仮説検証してみると、概ね仮説は正しかった、ただし想定とは違う業種が浮上したという発見がありました。

そして何より興味深かったのは、自分が仮説の起点にした介護・葬儀業種がTop50に入ってこなかったことです。この理由の考察も含めて記録します。

MVPの完成

yfinance + JPX公式CSVをデータソースとし、2段階取得方式(時価総額で先に絞る → 詳細指標取得)で効率化したスクリーニングシステムが完成しました。

対象は東証プライム・スタンダード市場の内国株式約2,820銘柄(金融・不動産除く)。データ取得から45点満点のスコアリングまでを完全自動化し、土曜夜にsystemd timerで週次実行する設計です。

途中、中外鉱業や富士P.Sで配当利回りの異常値(10.46%、8.38%)が検出されたため、配当履歴から手動計算するロジックに変更してデータ品質を確保しました。

フル実行の結果

初回のフル実行は約3時間で完了。結果は以下の通りです。

スクリーニング段階

  • 対象銘柄: 2,820
  • 時価総額30〜1,500億円通過: 1,987銘柄(70.5%)
  • PBR1.2倍以下フィルタ通過: 1,208銘柄
  • スコア25点以上: 354銘柄
  • スコア30点以上: 65銘柄

スコア分布

  • 最高: 32点(42点満点)
  • 平均: 21.0点
  • 中央値: 21.0点

興味深かったのは、最高スコア32点に18銘柄が並んだことです。一定条件を満たすと一律で同点になる傾向があり、これは今後のスコアリング改善の余地として認識しました。

Top 50の特徴

上位50銘柄を詳しく見ると、明確な傾向が出ました。

市場区分

Top 50のうち88%がスタンダード市場でした。全1,208銘柄ではスタンダード市場が65%なので、明らかに偏っています。これは「上場メリットが薄い小型割安株」が高スコアになる仕組みが機能している証拠です。

プライム市場からは6銘柄(12%)のみ。プライムでも時価総額200億円前後の「プライム下位」が中心でした。

業種分布

Top 50の業種は以下のような分布になりました。

  • 金属製品: 8件
  • 卸売業: 7件
  • 化学: 6件
  • 機械: 5件
  • 建設業: 3件
  • 電気機器: 3件
  • 小売業: 3件

指標

Top 30の平均は概ね以下の通りです。

  • PBR: 0.50〜0.70
  • 配当利回り: 3.5〜5.0%
  • 時価総額: 30〜250億円

仮説の検証

前回の記事で立てた仮説と照らし合わせてみます。

仮説①: 高配当

→ ✅ 合致。Top 30は全て配当利回り3%以上、平均4%超。

仮説②: 割安(低PBR)

→ ✅ 合致。Top 30はPBR0.70以下、最も低いものは0.30。

仮説③: 小型

→ ✅ 合致。Top 30の時価総額は30〜400億円。スタンダード市場が88%という偏りも、小型株への集中を示しています。

仮説④: 地味業種

→ 🟡 部分的に合致。建設業や繊維製品など地味な業種は確かに含まれていますが、想定していなかった業種が多数浮上しました。

想定外の発見:BtoB業種の浮上

最も意外だったのは、卸売業・化学・金属製品といったBtoB中心の業種がTop 50を占めたことです。

卸売業7件、化学6件、金属製品8件で、合計21件。Top 50の42%を占めます。

これらの業種の共通点を考えてみると、納得感がありました。

  • BtoB事業中心で、消費者向け知名度が必要ない
  • 顧客との長期関係性が事業の核
  • ニッチな分野で寡占的なポジション
  • 安定したキャッシュフロー
  • 創業家や同族経営が多い
  • 上場メリット(資金調達・知名度)が活かしきれていない

これは「地味業種=非公開化合理性」という仮説の本質をより深く言語化したものでした。私が想像していた介護・葬儀以上に、BtoB地味業種がMBO/TOB候補としては有望かもしれません。

介護・葬儀がTop50に入らなかった理由の考察

ここが今回最大の発見でした。

私が仮説の起点にしたのは、過去にTOB/MBOされた経験のある「介護・葬儀」業種の保有銘柄でした。それなのに、フル実行の結果Top 50にこれらの業種は1件も入りませんでした。

考えられる理由をいくつか挙げてみます。

理由①: 時価総額の壁

介護銘柄の多くは時価総額30億円未満の小型株です。私のスクリーニング条件「30〜1,500億円」の下限を下回ってフィルタで除外された可能性があります。葬儀業界も同様で、上場企業自体が限定的です。

理由②: PBRが既に1倍超え

コロナ後の高齢化テーマで介護関連株は再評価され、PBR1.2倍を超えている銘柄が多いかもしれません。「割安」というスクリーニング条件から外れます。私自身が保有している日本ケアサプライもPBR2.0倍程度です。

理由③: 業種分類のばらつき

介護・葬儀業はサービス業として広く分類されているため、業界特有の銘柄が業種統計に埋もれている可能性もあります。

理由④: 仮説の起点が「サンプリングバイアス」だった

私が「介護・葬儀がTOB/MBOされやすい」と感じたのは、自分の保有銘柄の中での経験です。日本市場全体で見ると、それはたまたま自分が選んでいた業種であり、業種そのものに特別な属性があるわけではないかもしれません。

つまり、私の仮説の真の本質は「介護・葬儀」という業種名ではなく、**その業種が持っていた「BtoB的特性」「地味さ」「上場メリットの薄さ」**だったのです。

これは大きな気づきでした。業種ではなく特性で考えるべきだったのです。

修正された仮説

検証結果を踏まえて、仮説を以下のように修正します。

Before(修正前)

高配当・割安・小型・地味業種(介護・葬儀のような)= 非公開化合理性

After(修正後)

以下の特性を持つ銘柄が、MBO/TOB候補としての合理性を持つ。

  • 配当利回り: 3%以上
  • PBR: 0.7倍以下
  • 時価総額: 30〜400億円
  • 特性: BtoB中心、ニッチ寡占、創業家関与、上場メリット薄い
  • 業種: 卸売・化学・金属製品・建設・繊維・サービス業の一部(介護・葬儀含む)など

業種ではなく特性で定義することで、より普遍的なルールになりました。

学び:仮説検証の価値

今回の検証で得た最大の学びは、自分の感覚的な仮説を、データで検証することの価値です。

仮説を立てた時点では「介護・葬儀がTOB/MBOされやすい」と漠然と思っていました。でも実際にデータでスクリーニングしてみると、その業種は出てこず、代わりに想定外の業種(卸売・化学・金属製品)が浮上しました。

この結果を見て、初めて「自分が感じていた本質は業種ではなく特性だった」と言語化できました。データ検証を通じて、仮説そのものが進化したのです。

感覚に頼った投資判断と、データで検証した投資判断の違いは、こうした「自分の思考の盲点に気づく」プロセスにあると感じます。

次のステップ

MVPは動きました。仮説も検証され、修正されました。次は以下を進めたいと思います。

  • Top 30の個別調査: ChatGPTでそれぞれの大株主構成や経営状況を調査
  • 過去のTOB事例との照合: スクリーニング結果に、実際にTOBされた銘柄が含まれていたかバックテスト
  • スコアリングの改善: 32点に18銘柄が並ぶ現状を改善し、より差別化できるロジックへ
  • 介護・葬儀銘柄の個別調査: なぜスクリーニングに引っかからなかったのか、PBRや時価総額の実態を確認
  • watchlist機能との統合: スクリーニング結果を自動でinboxに投入する仕組み

運用しながら改善する。MVPは完成形ではなく、出発点です。

まとめ

過去のTOB/MBO経験から立てた仮説を、自作のスクリーニングシステムで検証しました。

結論として、仮説は概ね正しかったものの、業種の解釈に修正が必要でした。介護・葬儀という具体的な業種名ではなく、その背景にあるBtoB特性・ニッチ寡占・上場メリットの薄さ、といった本質的な特性で定義し直す必要があったのです。

この気づきは、自分の感覚的な仮説をデータで検証して初めて得られたものです。AIを使った個人開発の面白さは、仮説検証のサイクルを高速に回せることにあると改めて感じています。

まだスクリーニングシステムはMVPです。バックテスト、個別調査、スコアリング改善、watchlist統合など、やることは多い。地味にコツコツ、AIと二人三脚で進めていきます。

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