watch listランキングの土台であるv2.3コアスコアには「増配実績・財務健全性が 高いほど、将来も増配しやすい」という仮説があり、これは過去の検証で 一定の裏付けが取れている。今回は一歩踏み込んで「増配を予測できる コアスコアは、その先の株価リターンまで予測できるのか」を検証した。
結論から言うと、コアスコアという複合指標では『判別不能』だった。 しかし検証の過程で、「実際に増配したかどうか」という単純な事実には、 株価との間にかなり明瞭な関連があることが分かった。以下、順を追って 記録する。
1. 本来の問い「コアスコアは株価リターンを予測できるか」への答え
「予測できない」と証明されたわけではなく、「今のデータでは判別できない」 というのが正確な結論である。
実質的な検証コホートは5年度分しかない。年度別のRank IC(コアスコアと 将来リターンの順位相関)を見ると弱い正の相関(0.03〜0.04程度)は 確認できたが、これを統計的に有意と判定するには、保有期間によって 10〜35年度分のデータが必要という試算になった。
現有の5年度は、どの保有期間で見てもまるで足りていない。これは 「効果が無い」ことの証明ではなく「見えないだけ」の可能性が高いことを 意味する。効率的市場仮説的に言えば、「市場がすでに将来の増配見通しを 株価に織り込んでいる」ことの示唆とも解釈できる。
2. ただし、その過程で見つかった副産物の方が大きかった
検証を進める過程で、本題(株価予測力)よりも重要な副産物が2つ見つかった。
- コアスコア自体に構造的な欠陥がある:
increase_track_record(連続増配年数を評価する項目)が、データ制約により検証期間を通じて ほぼ機能していなかった。しかもこの問題は遡及検証だけでなく、 v2.3本体の実運用スコアにも及んでいる(watch list対象銘柄の 99.9%が連続増配カウントの上限に届かず、本来2.0点まである評価が 事実上0点/0.5点の二択になっていた)。こちらは別途まとめる予定。 - 公開中の増配予測ページにも訂正すべき文脈の欠落がある (スコア帯別の集計が特定年度に偏っていることが明記されていない等)。
3. 「増配したかどうか」という単純な事実は、コアスコアより明瞭な関連を示す
ここが今回の検証で最も注目すべき点である。6項目を混ぜた複合指標 (コアスコア)ではなく、「その年度に実際に増配したか否か」という 単一の事実で株価リターンを比較すると、コアスコアよりもずっと 明瞭な関連が見えた。
保有期間250営業日(約1年)で見ると、増配のなかった企業は ユニバース平均に対して-4.6%だったのに対し、増配のあった企業は +2.9%。差は約7.5ポイントで、p値0.001未満と統計的に有意だった (年度単位のブロックブートストラップ検定)。これはこの検証全体を 通じて最も明瞭な結果である。
さらに「増配・維持・減配」の3群に分けると、効果がどちらから 来ているかが分かる。
効果は増配企業の上昇が主因であり、減配企業の下落が主因ではない。 「維持」と「減配」はどちらもマイナスで大きな差がなく(-8.1% vs -9.5%、 統計的に有意差なし)、「増配」だけが際立ってプラスだった。
ただし、この結果には重要な留保がいくつもある。
- winsorize(外れ値処理)には頑健だが、外れ値の影響はゼロではない
- 流動性フィルタをかけると統計的有意性を失う(点推定は+7.5%→+6.4%と 大きくは変わらないが、母数が減るため信頼区間がゼロをまたぐようになる)
- 配当利回りとは部分的にしか重ならない(低配当利回り群でもプラスの 差は残るが、高配当利回り群の方が効果が大きく、両者は別の要因という よりも補完関係に近い)
- 2025年度の突出した数字は、少数銘柄への依存度が高い(上位20銘柄を 除くと平均がプラスからマイナスに転落する)
- これは「増配発表後の株価ドリフト」であり、コアスコアが本来狙う 「事前予測」とは別物。増配という既に起きた事実に対する株価の反応を 見ているのであって、「これから増配しそうな企業」を事前に見分ける という話ではない。
- 因果関係は不明。「増配できる企業」はそもそも業績・キャッシュフローが 安定した優良企業である可能性が高く、株価の強さが増配という行為 そのものへの反応なのか、背後の好業績が同時に株価を押し上げた 共通の原因なのかは、この分析だけでは切り分けられない。
4. 全体として言えること
- **「増配は予測できるが、その先の株価まで予測できるかは判別不能」**が、 コアスコアという複合指標についての誠実な結論である。
- しかし**「増配の有無」という一点に絞ると、限定的ながら実際に株価との 関連が見えており**、これはコアスコアとは別の切り口として今後 発展させる価値がある(今回はあくまで探索的分析の域を出ていない。 事前に計画した検証ではなく、追加で確認したもの)。
- 検証プロセス自体が、本体のスコア設計(v2.3のcommitment_score)に 実運用上の欠陥があることを副次的に発見した。これは株価検証とは 独立に対応が必要な課題として切り出してある。
- 記事として発信する場合は、「コアスコアでは判別不能」を主軸としつつ、 「より単純な増配フラグでは条件付きで関連が見られた」ことを、 留保付きの参考情報として添える構成が妥当だと考えている。
いずれにしても、今回のような複合指標のバックテストで「効果なし」と 出た場合、単純化した1変数の切り口で見直すと違う姿が見えることがある、 という教訓が個人的には一番大きな収穫だった。